近年、日本人女性の乳癌は増加の一途を辿り、メディアの報道と相まって世の関心の高揚とともに乳腺疾患の専門家に対するニーズはますます高まっています。わが国ではこの四半世紀の間に診断・治療も大きく変わり、専門施設では乳房温存手術が乳房切除術を凌駕するに至っています。近代的な乳癌の根治手術療法の確立は、1882年にハルステッド(William Steward Halsted,1852-1922)が行った病巣を中心とする広範被覆皮膚・全乳腺・大小胸筋切除とリンパ節郭清からなる根治的乳房切断術に始まるといえます。19世紀末に確立されたHalstedの胸筋合併乳房切除術は驚異的な局所再発率の改善をもたらし、20世紀後半まで乳癌根治術のモデルとして世界に大きく影響しました。しかし、その後の『乳癌=全身病』というFisher理論の登場以降、世の流れは縮小手術へと向かい、胸筋温存乳房切除術を経て、現在では乳房温存術に照射を併用する乳房温存療法が主流となっています。さらに、今後解決すべき問題は残されているものの、センチネルリンパ節生検の出現で腋窩リンパ節郭清も過去のものとなりつつあります。
このように今日では集学的治療の一環として、外科手術は局所制御が主たる目的となってきています。また、cryo-surgery(凍結療法)、RFA(radiofrequency ablation:経皮的ラジオ波焼灼療法)やFUS(focused ultrasound surgery:集束超音波治療)などメスを用いない原発巣へのアプローチも行われつつあり、近い将来、予防的な腋窩リンパ節郭清の意義が完全に否定され、センチネル生検が標準術式となったあかつきには外科医の果たせる役割は益々小さくなるのでしょう。あるいはさらなる新薬の開発、non surgical ablationや放射線照射の技術が進み、針生検で診断の後は、原発巣は非手術的にコントロールし、センチネルリンパ節生検の結果を踏まえて後療法を決定するといった究極の時代が訪れるのかもしれません。もしも時を越えてHalstedが21世紀に現れたならいったいどんな感想を漏らすのでしょうか。
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乳癌外科治療の過去・現在・未来~聖隷佐倉市民病院乳腺外科 木下 智樹 | トピックス | すたっとTV
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