安政5年(1858年)に日米修好通商条約が締結され、日本は「開国」という名の新しい歴史の幕を開けた。条約交渉に尽力した佐倉藩主・堀田正睦公、多くの逸材を生んだ佐倉順天堂、開国150周年を契機に「幕末の佐倉」を学ぶ。
順天堂大学客員教授 酒井シヅさん
6月3日(火)から、国立歴史民俗博物館第3展示室で、ミニ企画展示「近代医学の発祥地・佐倉順天堂」が開催されます。第3展示室リニューアルに伴い歴博では「いつ来ても新しい」をコンセプトに、即時性を生かしたミニ企画展示を展観。今回は、6月21日・22日に医史学研究者による学会「日本医史学会総会」が佐倉市で開催される事を機に、江戸時代において近代医学のリーダーであった「順天堂」を広く知って貰おうと、日本医史学会、佐倉市、佐倉市教育委員会、国立歴史民俗博物館、順天堂大学の共催で実現するものです。展示では、近代医学(蘭学)のはじまり、佐倉藩と蘭学発展の経緯、佐倉藩医・佐藤泰然の活躍、順天堂の医療等を、佐倉藩の蘭書や順天堂での外科記録、医療器具等の展示を通して紹介。また、国立歴史民俗博物館のホームページで公開中の「地域蘭学者門人帳人名データベース」では、順天堂や全国の塾の門人達について功績を知る事ができます。
江戸時代、順天堂は外科治療に秀でていました。蘭語(オランダ語)の医学書を読み、その図版から医療機器を作って治療研究を重ねました。順天堂の治療は、当時の最高水準を極めたと言われており、特に天然痘の抑制には大きく貢献。ウイルス感染で起こる天然痘は命に関わる恐ろしい病。当時は中国から伝わった「人痘法」が一部で行われていましたが、牛の天然痘である牛痘の膿を接種する、より安全で進歩した「牛痘法」がいち早く導入され、蘭学の先進医療が施されました。嘉永4年(1851年)には、日本初の「膀胱穿刺」手術に成功。当時の外科手術の様子が順天堂の門人である関寛斉の「順天堂外科実験」に詳細に記されています。
順天堂の名を広めたのは、佐藤泰然の養子である佐藤舜海(尚中)。舜海は長崎でオランダ海軍軍医ポンペに近代医学や制度を学んで帰藩後、藩の医制改革を実施。長崎に次いで2番目となる西洋式医院「佐倉養生所」を佐倉藩に開設しました。しかし、明治新政府が国の医学制度の改革を舜海に託す為に東京に呼び出した事、廃藩置県によって佐倉藩が養生所を継続できなくなった事で佐倉の医制改革は終わりましたが、その制度は東京大学医学部の前身東校で継承されました。その後、政府がドイツ式医学教育を始めた事により、舜海は東京に順天堂を開き医学教育と患者の診療に、残りの生涯を捧げました。
佐倉の順天堂の門人からは、明治期に活躍した医学者が多く輩出されました。「済生学舎」を創設して医学教育に尽力した長谷川泰、戊辰戦争で活躍、晩年は北海道開拓に尽くした関寛斉、内科医として名声を博した佐々木東洋等、医学界をリードする優秀な人材達です。
堀田正睦公という優れた藩主がいたからこそ、佐倉藩に蘭学が奨励され、正睦公を支えた重臣、渡邉弥一兵衛らの尽力によって、佐倉藩での蘭学が発展しました。多くの蘭学者を輩出した佐倉藩だからこそ明治以後、医学だけでなく殖産産業を始め、多方面で活躍する人材を輩出できたのだと思います。 幕末の佐倉は、新しい時代の機運に満ちていた事でしょう。今回の展示で、道なき道を切り拓いていった佐倉の先人達の素晴らしさを感じて頂きたいものです。
佐倉ライオンズクラブ ハリス像建立委員会
実行委員長 塚田雅二さん
一昨年、佐倉ライオンズクラブ創立40周年記念として、佐倉城址公園本丸跡入り口に開国の父と呼ばれた佐倉藩主・堀田正睦公の立像を建立。そして、日米修好通商条約締結150周年の今年、ともに交渉を重ねてきた初代日本総領事タウンゼント・ハリスの銅像を建立します。クラブ内にハリス像建立実行委員会を設け、2月にはハリスがアメリカ総領事館を設置した下田の玉泉寺にも足を運び準備を進めてきました。ハリス像は等身大の172�。城址公園内、本丸跡に続く道を挟んで左右に正睦公像とハリス像が並び、ともに開国を目指した者として、アメリカの方角を向いた姿で建立されます。除幕式は6月14日の予定。条約が締結された月にならったもので、式典にはアメリカ公使も出席し日本初のハリス立像誕生を祝います。ハリス像建立は、正睦公像建立時から計画していました。二体が揃った事で改めて、偉大な政治家であった堀田正睦公が、私達の住むまち・佐倉にいた事を、佐倉城址公園という誰もが気軽に足を運ぶ事のできる場で多く目にして貰い、来訪者だけでなく市民に幕末の佐倉が輝いた由縁を理解して頂きたいです。また、銅像建立が起爆剤となり、まちづくりへの波及効果が高まる事も期待しています。
佐倉ライオンズクラブ会長(2007〜2008)
廣田正文さん
私は、佐倉ライオンズクラブ会長であると同時に「佐倉藩友会」会員でもあります。佐倉藩士の末裔としても、ハリス像建立は大変喜ばしい事であり、佐倉藩友会も協賛しています。佐倉藩主・堀田正睦公は、幕府内において「蘭癖」とも呼ばれていましたが、いち早く蘭学を奨励し開国を見据えた先見の明に秀でた偉大な人物です。私達佐倉市民も佐倉藩に学ぶべき点が沢山あるはず。二体の像を見た方が、日本を開国に導くため交渉に心血を注いだ二人に思いを重ね、郷土の偉人を認識して頂く事を願っています。
佐倉市では、開国150周年記念事業として、様々な催しを予定しています。5月6日まで佐倉市立美術館エントランスホールでは、江戸の文化に触れて貰おうと、旧城下町から3町内の山車人形を展示します。6月には、キャスター・松平定知氏による記念講演会を開催。「その時、歴史が動いた」の現場から、貴重な話が届けられます。開国150周年の今年、幕末の動乱期に輝きを放った郷土の先覚者たちの歩みに、触れてみませんか。
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