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STaD×聖隷佐倉市民病院「健健全な血管年齢をめざして」

2019/12/01

健健全な血管年齢をめざして - HVA(Healthy Vascular Aging)という考えかた -
                      血管外科部長 金岡 健
 動脈は年齢とともに硬くなるという考えから“血管年齢”という言葉が生まれました。しかし、その意義にはまだ不明なところが多いです。例えばそれに関連した病気としてよく取り上げられるものに粥状(じゅくじょう)動脈硬化症があります。これは比較的若い頃からみられる血管の変性に炎症やコレステロール沈着などが起こり、時にプラーク(粥腫)の破裂を招いて心筋梗塞や脳梗塞などを合併する病気です(図1)。つまり、粥腫変化は動脈の硬さと云うよりは主に代謝系の問題です。
 血管年齢として表現している動脈硬化とは何なのでしょうか。血管の硬さと伸縮性は神経や生理活性物質によって調節され、また血管の壁を作っているゴムのような成分(エラスチン)と硬い成分(コラーゲン)の比率が次第に変化して硬くなります。その結果心臓からの脈波が直接臓器へ伝わり、脳や腎臓は柔らかい毛細血管でできているために高血圧の人では容易に障害を受けます。このようにして動脈硬化は高齢者に多い認知症や腎不全の原因になると考えられています。また、本来動脈硬化と高血圧は別のものですが、お互いが強く影響しあっており同時に存在していることが多い病態です(図2)。
 動脈の硬さの指標として脈の伝わる速度(PWV)や壁の拡張性(CAVI)が計測され、同年代の標準的な値と比較していわゆる“血管年齢”が推定されます。同年代の標準的な値の分布はグラフ(図3)で表されており、年齢が高くなるほど(すなわち右に行くほど)血管は硬くなり右肩上がりです。これが正常な血管と信じられてきました。ところが最近、伝統的な狩猟採集生活を送っているある民族の研究で、高齢者なのに血管は柔らかく高血圧症の患者がほとんど無いという報告がありました。このことから、高齢者でも血管を柔らかく保てるのではないかという希望と、これまで正常とされていた「徐々に硬くなる血管」はどこまで許されるのかという疑問が出てきました。
 最近米国から、50歳以上で約3千人の血管の硬さを約10年間にわたって観察した大掛かりなフラミンガムと云う研究の報告がありました。その特徴は、「老化の影響を受けずに健康で若々しいまま維持される血管」を想定して『健全な血管年齢』としたことです。具体的には、30歳未満の健康な若者と同等の柔らかい血管を持つことです。結果は、6人に1人(17.7%)の割合で『健全な血管年齢』が見つかり、年齢とともに減っていました。逆に様々な生活習慣病の危険因子を避けるほど増えていました。さらに、この特別な“若い血管”を持つだけで心臓血管病の発生が半減していました。すなわち、 30歳以上の血管そのものが危険因子になる可能性が示されました。要するに、ずっと20歳代の血管を維持できる人が少数ながら実際に存在する一方で、今日正常とされている血管の老化は生活習慣病と因果関係のあることが示されました。今後さらに研究の進むことが望まれます。
 いずれにしても、血管の硬さは実年齢よりも環境因子に影響されることは確かで、とりあえず高血圧などの生活習慣病に対する治療は年齢にかかわらず生涯続けたほうがよさそうです。

 最後に、『健全な血管年齢』を維持するために推奨されているものを紹介しておきます。
(1) 有酸素運動
動脈硬化に対する効果は一定していない。健康で高血圧が無い人では『健全な血管年齢』の維持あるいは回復が期待されている。
(2) カロリー摂取制限による体重減量治療
高血圧ばかりでなく動脈硬化も改善させる。特に肥満体型の成人にとっては重要。
(3) 食塩の摂取制限
動脈硬化、高血圧ともに改善させる。また、病的動脈硬化から健全な血管年齢への回復が示されている。
(4) フラボノイドの摂取
柑橘類、種子、オリーブオイル、茶、赤ワインなどに含まれるフラボノイドによって動脈硬化は改善する。高血圧に対する効果は種類によって様々である。副作用はまれで非常に安全である。
(5) 食事内容
小児期から野菜を摂り、その後も果物と野菜を多く消費し続けると、成人期の動脈硬化は明らかに抑えられる。

おことわり
HVA(Healthy Vascular Aging)に対する適切な日本語訳がまだ見当たらなかったため、本稿では筆者が独自に「健全な血管年齢」と訳しました。